2012年 11月 21日
県大会の会場・昼食休憩 【日時】2012年11月10・11日 【場所】広島市東区民文化センター 【内容】以下の13校についての審査講評を行う。 ■■【全体の感想】 広島県の芝居は、いつも誠実で好感の持てる芝居で、期待を裏切りません。 しかし、クオリティへのこだわりで、もっといい芝居にできると思います。 以下、各校共通な課題をいくつかあげてみます。 1)「セリフの波」について ▼セリフに高校演劇特有な「波(シャクリ)」のクセがあり、言葉が相手に入っていない学校が多かったように思います。勢い役者同士の「反応」が弱くなり、芝居のエネルギーが三次元的にこちらに立ってこない演技が目立ちました。そうなると観客は勢い「ストーリー」を追うしかなくなります。 芝居は、平板な「ストーリー」を示すのではなく、ある「エネルギー」を舞台上から発信しなければいけない。 しかし個人のエネルギーはそのままでは芝居にはならない。エネルギーは「関係性」から立ち上ってきます。「関係性」のエネルギーがこちらに立ってきたとき、観客は目を離せなくなり、その空間は一挙に魅力的になります。 ▼そのためには、役者ひとり一人のイメージを深める必要がある。イメージとは「何かについての」イメージなので、それは必ず自分の外のあるものへの関心で始まり、その結果ある感情が湧き、それをまた外に発信(アクション)したくなる。その結果が「演技」だから、「自分」は言ってみれば一つの「フィルター」に過ぎないのです。イメージが浅いと、左脳で憶えた「言葉」を大きな声でただ「独白」する結果、セリフに特有なシャクリが生じることが多い。また勢い体のどこかを動かしながらのセリフも多くなります。(体を動かしながらでないとセリフを言えなくなる) あくまでも出発と到達点は「自分」ではなく、「外」なのです。中心は「自分」ではなく自分の「外側」なのです。 ▼ここがクリアーできると、芝居の楽しさと面白さが深まり、広島の芝居はグット輝きを増してくるように思うのですが・・・・。 2)「ドラマ」ということについて ▼芝居は「ストーリー」ではなく「ドラマ」なのです。 「ストーリー」はとりあえず平板な物語の流れです。 「ドラマ」とは目の前のぶつかり合いから生じる事件とその変化なのです。 平板な「ストーリー」では、観客を感心させることは出来ても、ドキドキハラハラさせることは出来にくいのです。 誤解を恐れないで言えば、芝居はドキドキする優れた「見せ物」です。ある種のエネルギーです。 ▼しかしながら、今回の舞台では、優れた生徒創作もあったのですが、総じて「ドラマ」ではなく「ストーリー」の芝居が多かったように思います。 難しい点ですが、大事なことです。 尾道高校の「演劇とは何か?」ばりに、一度考えてみて下さい。 ■■【各校上演の感想】 それぞれが素晴らしい上演でした。 しかし、紙面の都合もあるので、あえて直して欲しい点を中心に書かせて頂きました。 二日目の上演の感想はこの下にアップしてあります。 <第1日> ■●【上演1】濵田 帆南美 作 「ありがとう」 鈴峯女子高等学校演劇部(広島地区) ▼いじめにあっている香織の祖母(とも江)が、自らの被爆体験を話し、「生きていることの大切さ、命の尊さ」を示す。ナイーブで誠実な芝居づくりがとても好感がもてたし、「いじめ」と「被爆体験」を結びつける視点は一つのアイデアで、面白かった。ただ、それがもう一つ成功していなかったように思う。祖母の「一緒に考えようや」で、弟の「僕も考える」祖母「これで安心や」で終わってしまうのは少し弱い感じだった。 ▼子ども達は少し声が高すぎで、セリフが聞き取れなかったが、先生の声は低く抑えてよかった。 「椰子の実」の歌が綺麗だった。 セリフはもう少し相手に入れないと芝居が三次元的に立ってこない。フレーズ切れが多く、高校演劇特有な「波」が多いのが目立った。またほとんど全員が「動きながらしゃべる」クセがあり、これもリアリティを損なっていた。 もう少し「本当の笑い」「本当の恐怖」を役者のこころと体につくるともっと素晴らしい芝居になったのではと思う。 ▼原爆の音はもう少し迫力と工夫がほしかった。 また電車の入り口は下手手前の方がよかったのでは・・・・。 ■●【上演2】岡部 敦作 「I am a little girl」 福山市立福山中・高等学校演劇部(福山地区) ▼学校の同窓会館の古い鏡の間で、90年前と現代の、教師と生徒が、鏡を介して交差する。 90年前の教師トシ(宮沢賢治の妹)の稟とした生き方に、教員と関係を持った現代の生徒が勇気をもらう。「私は小さな存在。でも私しか出来ない天職がある。夢がある」「私は私」というある意味普遍的な「自立」を暗示して芝居が終わる。 鏡を介した素敵なお話で、丁寧に作られた芝居だった。シンプルな内容で共感を持てた。 しかしこのテーマだけが客席に投げられるだけで、舞台の上でのドラマがなかった。演劇は小説やエッセイではない。舞台の上でドラマが生まれて欲しい。役者と役者がぶつかり合って、得体の知れない何かが立ち上って欲しい。ストーリーやテーマに従属したり、収斂するだけだと、いくら頑張ってもエネルギーがこちらに迫ってこない。 ▼役者は聞きやすい自然な物言いだった。しかし少し弱い。語尾も相手に入っていなかった。もっとイメージを湧かせて、感情を相手にぶつけるようにした方がいいと思う。 山田先生が生徒を「見つけた」と言う演技、山田先生とひろ子の「困った」という演技、いずれも話の出発なので、なぞった演技でなく、もっと気持ちが欲しかった。 ▼90年前の昔の二人の場面は、衣装もよく、綺麗な場面だった。しかし、トシさんが相手の顔を見すぎで、顔が判らなかった。もっと観客に開いた位置や、工夫が欲しかった。 ▼鏡の使い方をもっと工夫出来たように思う。 最初に鏡から人物が現れるシーンは、ある意味一番大事なところなので、もっとしっかり溜めて、印象的に作って欲しかった。とも子が最後鏡の中で頭を下げるのは、芝居の構造的にも少し違和感があった。ラストも鏡に何か写って、印象的に終わるやり方はできないだろうか? また、昔と今との対応をもっと工夫出来るのではないか? 例えば、昔と今の役者の立ち位置はそのままに、イスやテーブルクロスをアンチークなものに変えて処理できるともっと芝居がはずんだような気がする。 ■●【上演3】玉木 瞳 作 「れいのおくりもの」 広島県立広島観音高等学校演劇部(広島地区) 蘭の親友の玲(ゼロ)は、蘭が自殺した一周忌に、ある霊からブレスレットをもらう。その力を借り過去(5年前?)にタイムスリップして、蘭に、自殺した子(美香・霊)と、それを悲しむ母(奈美)を会わせ、「残された人々の気持ち」を判らせることで、蘭に自殺を思いとどまらせると言う話。つまり「過去を変える」という一種のメルヘン。 ▼終始コメディタッチの手触りがよかった。しかしだからこそ逆にもう少しリアルな演技が必要だった。霊の扱いももっと丁寧に描くべき。見えないはずの子ども(美香)に語りかける母親(奈美)の演技や、美香が蘭の体を借りる(乗り移る)辺りの演技は、もっとも「演劇的」な面白い箇所だ。もう少ししっかりリアルに作ると芝居がグット面白くなるはず。 ▼玲(ゼロ)の表現は、大きく安定していたし、笑いとともに、観客を引きつけていた。しかし過去が変えられるかどうかの「賭け」なので、ただ魔法使い然として見守るだけでなく、親友の変化をハラハラドキドキしながら、でもそれを隠しながら見守る演技が必要だった。 ▼昼と夜を表している(?)吊りモノのデザインは、少し判りずらかった。夜の照明も暗すぎで、役者の顔が見えなかった。単サスを利用する手もあったのでは・・・。 ▼生徒創作としては頑張ったなあという印象。 しかし、「蘭の自殺の原因が私では?」という玲の気持ちや、「自殺を思いとどまる」蘭の気持ちのリアリティがあれば、充分面白くなる芝居だと思う。 ■●【上演4】岡田 隆一 作 「ちょっとそこまで」 清水ヶ丘高等学校演劇部(呉 地区) ▼レイプを受けて引きこもりになった緑が、同じ体験を受けた林の出現で、自助サークルまで(「ちょっとそこまで」)外に出かける決心をする。 まずこういうシビアーな主題に取り組んだことに敬意を払いたい。 しかし、だとすると緑が自分自信を引き受けて解放されていく内容をもっと突き詰めて示して欲しかった。でないとただ「解放へのストーリー」を見せられているような感じになってしまう。 芝居はストーリー(お話)ではなくドラマ(ぶつかり合い)だから・・・。 ▼しかし、装置は高さのある、力作だった。 難を言えば、緑の部屋が余りにも狭すぎで、それに比べて階段が広すぎだった。壁の切り方にももう少し配慮が欲しかった。装置の「高さ」は魅力的なので、汚しも含めて、もう一つのこだわりが欲しいところ。 ▼役者は頑張っていたのだが、心の中の反応が薄い。演技のデッサンももう少し細かく詰めると「芝居の線」がハッキリして、観客を引きつけると思う。 例えば、レイプされた緑のSSの中の反応が弱い。目覚ましの音で「ビクン」となるはず。林さんの出から緑はただずっと雑誌をめくっているだけ・・・・。 妹が引きこもりになった姉の部屋に初めて入る時の入り方をもっと丁寧に。 林さんが初めて緑の部屋に入るときの反応。(早すぎる) また、それを立ち聞きする母と妹の反応。「抱き合ったりする」のは余りにもなぞってる感じ(説明)になっていたように思う。 ■●【上演5】三宅 あきほ 作 「カランコエ ~たくさんの小さな思い出~」広島県立尾道商業高等学校演劇部 (尾三地区) ▼祖父から祖母(末期ガン)と娘(小幸・母親)とのエピソードを聞いた子ども達(真と実)は、①「死ね!」という言葉の罪(?)と②親(家族)の愛情に気付く、という芝居。 コントタッチで楽しい芝居に仕上がっていたし、装置もしっかり創り上げていて素晴らしかった。 ただ見終わって上述の①の「死ね」と言うことがそんなに罪なのか? そう言うことでほんとに人が死んだりするんだろうか?という疑問がぬぐえなかった。また①と②の2つのテーマがどう繋がるのかちょっと判りずらかった。弱いテーマを互いに補完してるような印象だった。 ▼部屋としては、少し大きすぎたのでは。カウンターの近くに(ソファーでなく)座卓があるのは変。もう少し上手の祭壇(う~ん、祭壇には見えなかった)の方に遠ざけた方がよかったのでは・・・。 病院のシーンは、前明かりを止めて、舞台前をSSでしっかりエリアを作ってやった方がいいと思う。観客に後の家の壁が見えてしまうと、病院という感情移入はできにくい。 座卓をベット変わりに使いまわしするのであれば、位置や角度をずらす必要がある。どうしても座卓のイメージを拭えなかった。 ▼役者は元気いっぱいで、面白かった。 お爺さんの演技はコミカルで観客の笑いをとっていたが、もっと芝居のストーリーの中で、テーマに関連づけた演技で笑わして欲しかった。でないとコントの笑いになってしまうし、一人の役者のショーになってしまう。お父さんになったときも、太った高校生にしか見えなかった。芝居心がある人なので、もう少し内面からの演技を見たかった。 美咲のセリフは、鍛えていい発声を手に入れると、とてもいい表現が出来る人だと思った。ただ、細かいことだが、美咲の顔に被さる髪の毛が気になって仕方なかった。観客に顔が見えにくいというのは致命的だから・・・。 祖母は、上手の祭壇近くに陣取っていてもよかったのでは・・・。 ▼芝居の最中にパネルが動いてしまったら、最悪、暗転時には戻してあげるスタッフの気合いが欲しかった。 ■●【上演6】大手町商業高校文芸部演劇班・作 上田里沙潤色 「KAPPA-もう一つの時間-」 広島市立大手町商業高等学校演劇部(広島地区) ▼登校拒否になった陽子が、子どもの頃出会ったカッパに再会し、「人間のつくった時間」とは別な「もう一つの時間」(本当の時の流れ、昔からある悠久の時間)の存在を知り、自分を取り戻す。 メルヘンチックなテーマで、装置もしっかり作ってあり、作品としてまとまった感があり、素敵な芝居だった。 ▼ただし、ストーリーが単純過ぎて、一つのエピソードを見せられたという感が強かった。おまけにそのストーリーに寄与する為の「説明セリフ」が多すぎる感じがした。すくなくとも引きこもりの主人公に「もう一つの時間」というタームを言わせない方がいいと思う。もう少し「心からのセリフ」が欲しかった。 綾や母親にもう少し「人間の時間」を生きてる「重さ」があったら逆によかった。あるいは少し飛躍だが、カッパさえ「人間の時間」に毒されている・・・、と言う要素をいれたら芝居がメルヘンから構造をもった芝居になったかもしれない。 ▼陽子とカッパの3回の出会いを、それぞれ差違をしっかりつくって欲しかった。つまり「関係づくり」だ。時間の経過が判るくらいの空気感の差違を二人の「関係づくり」でつくって欲しかった。それがこの芝居の成功の一つの鍵だとおもう。 陽子が最初にカッパと出会い、時間が経過して、「閉じこもり」になって自分の部屋に入る訳だが、その時間の経過が表現されていなかった。カッパと別れてすぐ家に帰ってきた感じだった。時間の経過を、演技はもちろんだが、暗転や音響などで観客に判らせる方法はいくらでもありそうだ。 ▼装置に関しては、部屋の下の石垣(?)は最後まで違和感が拭えなかった。文字通りお城の石垣の上に部屋があるという印象のまま芝居が続いていく。思い切って照明でカッパの出会いと陽子の部屋を照明でエリアに区切って演じてしまったら判りやすかったのでは・・・。中央の大きな木も、部屋の上にかかっているので、どちら側の装置か判らない感じだった。 丸太は腰掛けるには低すぎる。上手にあった2つの岩(?)と交換してもよかったのでは・・・。 部屋に入るとき、もう少し「走り込み」を長くとった方がよかった。役者がみんな階段を上るように部屋に入ってきていた。また部屋の照明が少し暗く、顔が判別しにくかった。 ■●【上演7】上田 美和作 「トシドンの放課後」 広島県立大門高等学校演劇部(福山地区) ▼非行で学校謹慎になったあかねは、別室当校の平野と同室になる。それそれの負荷を抱えたしかし全く違うタイプの二人は、少しずつ気持ちが触れあってくる。やがて進級できずに学校を去ることになった平野に、あかねは自分の故郷の神様「トシドン」のお面をつけて「死んだらゆるさん」と迫る。 もう高校演劇ではおなじみの台本。台本が良くできているだけに、演技が問われれるところだ。 その点、演技者はかなり頑張って、挑戦していたと思う。 ▼一番の問題はあかねの座る位置。平野より前でしかも舞台前。これだと観客から顔がみえず、演技がこちらに立ってこない。もう少し顔の見える舞台奥で、しかも平野とは距離置いて座った方がいい。平野のキャラクターはなかなかよく形象化していたと思う。ただし二人の関係性は、もう一歩繊細につくって欲しかった。先生は少し頑張り過ぎか? また衣装はカーディガンだけでも替えて出てきて欲しかった。 平野は、あかねに「あんたバカじゃないの」と言われるところ、最後1回笑うと、気持ちにもっと深みが出たのでは。 最後のトシドンのお面は、手で持つのではなく、顔につけて、しかももっと声に「どうしようもない怒り」が欲しかった。 ▼装置は少し広すぎる舞台に戸惑いながら、段ボールなどのモノで埋めた感が否めない。もっと袖幕をせめて、狭い部屋でシンプルに演技だけで勝負してもよかったかもしれない。 ■●【上演8】松本 誠司 作 「〈さよなら惑星〉夜の旅」 広島市立基町高等学校演劇部(広島地区) ▼「フエキリョウコ」という管理人のもとで「さよなら惑星」というサイトがあった。管理人は各自のサイトの内容を一つの物語に紡ぎ上げてくれる。そしてそれは一つの救いだった。 ところが管理人「フエキリョウコ」が姿を消した。5人の人々は、姿を消した「フエキリョウコ」を探して、東に向かって、銀河鉄道ならぬ深夜バスの旅に出る。 しかしやがて物語の言葉からは力が失せてくる。もっと生身の身体(他者?)で話をしたい。自分の体で行動したいと気付いてくる。そして旅の終わりへ・・・・。 ▼難解な、しかし魅力的な詩のようなセリフが次々に舞台上から発せられる。 しかしそれが魅力的などほどには観客に届いていなかった。 皮肉にも役者は言葉を自分の体に進入させ、行動としての演技にならず、言葉としての言葉にとどまったままだった。そうなると勢い舞台は、いろんなものをかすりながら、「思わせぶり」に終始してしまうことになりやすい。 この抽象性に力を与えるには、観客に判らせる部分と、感じさせ、考えさせる部分をハッキリ分けて、したたかに方法的につくらないと失敗すると思う。 ▼舞台やや下手よりにバスのエリアを照明でつくり、ボックスのイスを配置した。人物の配置が重なることが多く、観客席からは見えづらかった。 ▼男の4人の役者はすべて声が素晴らしかった。しかしほとんどモノローグのようだった。 セリフは対話なのだ。 セリフが相手の体に入ったとき、それはほとんど「一つの事件」だとさえ思う・・・・。
by tetsubin5
| 2012-11-21 10:53
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